「地球は赤かった」(今日泊亜蘭)

結末は人類の未来の福音か、それとも

「地球は赤かった」(今日泊亜蘭)
(「最終戦争/空族館」)ちくま文庫

「最終戦争/空族館」ちくま文庫

「地球は赤かった」(今日泊亜蘭)
(「たそがれゆく未来」)ちくま文庫

「たそがれゆく未来」ちくま文庫

窓の外に目をやった。
数百万年見慣れてきた緑は
ただの一か所も
見当たらなかった。
そこにはただ赤い景色が
あるばかりだった。
蔓草のように
不気味に曲がりうねって伸びる
怪異な枝を
縦横にからみあわした
真っ赤な植物の原生林の…。

「地球は青かった」と言ったのは、
1961年に世界初の
有人宇宙飛行に成功した
ソ連の宇宙飛行士ガガーリンでした。
この言葉の原文の意味するところは
「空はとても暗かった。一方、
地球は青みがかっていた」なのですが、
日本ではキャッチコピー的に
「地球は青かった」が
広まってしまいました。
その12年後の1973年、
SF作家・今日泊亜蘭が創り上げたのが
本作品「地球は赤かった」です。

〔登場人物〕
昨日
…へんくつな男。文明に背を向け、
 赤い植物・アカギとともに
 共生する道を選ぶ。
森悠一郞
…国土省の状況検察官の
 リーダー的地位にいる男。
 部下を待機させ、
 昨日に会談を申し込む。

本作品の味わいどころ①
描かれた世界は繁栄の末か、それとも

舞台は近未来です。
自然破壊が極限まで進み、
自然界の動植物のほとんどが死滅し、
人類が植物工場などで食料生産し、
その表面には
緑が存在しなくなった地球です。
繁栄を極限まで極めていると
見るべきか、それとも
破滅の一歩手前ととるべきか。
高度経済成長期に
今日泊が創造した世界は、
それから50年後の現代においても、
いささかもその衝撃度を失わずに
問題を提起しています。

本作品の味わいどころ②
赤い植物は破滅の象徴か、それとも

その近未来の世界に
厄災をもたらしているのが
赤い植物・アカギです。
異常な速度で繁殖し、
動くものの妨げとなり、
時には人間さえも捕らえて
死に至らしめる驚異の植物。
酸素ではなく炭酸ガスを大量に放出し、
地球を窒息させてしまう恐怖の植物。
天敵となる生物が存在しないため、
刈り取って焼却するしか
滅する方法のない無敵の植物。
そうしたものに
地球は覆われてしまっているのです。
それ故に「地球は赤かった」。

しかし、辺境の地でこの植物と
共生を図っている男・昨日の存在が、
提起された問題を複雑にしています。
この植物・アカギは本当に
破滅の象徴なのか?という疑問です。

人間以外死に絶えた地球に適応し、
唯一生物として存在しうる植物であり、
地球が再生するきっかけとなる
可能性を秘めているからです。
文明にとって、そして人間にとって
有害であっても、
長いスパンで考えたときには、
むしろ救世主であるという見方が
できる余地があるのです。

本作品の味わいどころ➂
結末は人類の未来の福音か、それとも

結末もさらなる
問題提起を行っています。
アカギの天敵となり得る生物が
偶然見つかり、
主人公・森は安堵します。
「アカギの自然的を捜すことは
 わたしたちはもう
 あきらめていたのだが、
 あなたのところにそれがいた
 ――ごらんなさい、
 この始末におえない化け植物が
 しおれてゆくさまを」

それは、絶滅していたと思われていた
小動物の発見であり、
その小動物によって
アカギを駆除できるめどがついたという
安堵を表しているのです。
でも、その結末は
人類の未来の福音となるのかどうか、
それも考えさせられます。

その小動物はおそらく
うっそうとしたアカギの森が
育んだものであるはずです。
その小動物を使って、果たして
アカギを完全に駆除できるのか?
そもそもアカギを駆除すれば、
せっかく再生したその小動物もまた
死滅するのではないか?
希望を見出した形での
幕切れとなっているのですが、
見方を変えると、人類がそのまま
破滅への道を進行し続ける
凶相とも考えられるのです。

今日泊はおそらく
想定していなかったのでしょうが、
現代的な視点から見ると、
「アカギの排除」と「アカギとの共生」の
どちらがより正しい在り方なのか、
深く考えさせられてしまいます。
衝撃度は衰えていないものの、
その解釈は多様性を帯びてきています。
じっくりと味わっていただきたい
古典SF作品です。

それにしても、
ソ連が解体した後のロシアと、
70年代にはまだまだ力の小さかった
中国が、それぞれ覇権主義を隠さず
力による現状変更を試みるようになった
現代の情勢が、
悪い方へと転んでいったとき、
「地球は赤かった」という言葉は、
別の意味(共産主義!)で
現実となる可能性があります。
あなおそろしや。

〔「最終戦争/空族館」〕
完璧な侵略
次に来るもの
博士の粉砕機
地球は赤かった
ケンの行った昏い国
無限延命長寿法
素晴らしい二十世紀
おゝ、大宇宙!
スパイ戦線異状あり
恐竜はなぜ死んだか?
完全作家ピュウ太
最後に笑う者
秋夜長SF百物語
宇宙最大のやくざ者
オイ水をくれ
何もしない機械
古時機ものがたり
溟天の客
幻兵団
カシオペヤの女
最終戦争
天気予報
ミコちゃんのギュギュ
怪物
パンタ・レイ
ロボット・ロボ子の感傷
神よ、わが武器を守り給え
イワン・イワノビッチ・イワノフの奇蹟
坂をのぼれば…
早かった帰りの船
三さ路をふりかえるな
黒いお化け
永遠の虹の国
光になった男
まるい流れ星
空族館
つぎに来るもの
ケンの行った暗い国
ロボットを粉砕せよ!
ああ大宇宙

〔「たそがれゆく未来」〕
火の雨ぞ降る 高木彬光
辺境五三二〇年 光瀬龍
夜に別れを告げる夜 樹下太郎
カマガサキ二〇一三年 小松左京
おいどんの地球 松本零士
自殺卵 眉村卓
地球は赤かった 今日泊亜蘭
耳鳴山由来 矢野徹
下の世界 筒井康隆
宇宙虫 水木しげる
機関車、草原に 河野典生
鉛の卵 安部公房
合成美女 倉橋由美子
Rôjin 楳図かずお

〔今日泊亜蘭の本はいかがですか〕
著書の多くが
現在は絶版となっているのですが、
以下の2冊がまだ流通しています。

(2023.11.30)

WikiImagesによるPixabayからの画像

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